煌々

 思い出の節目節目に音楽があり、味があり、香りがあり、そこから思い起こされる映像がある。それらは私のかけがえのないものだと断言できる。個人的で内省的で覚書でしかない記事なので、読み飛ばして頂いて構わないです。私にとっては、それらがなければ自分という存在の一部を欠いてしまうようなものだけれども、他の人にとっては、全くどうでもいい何の役にも立たない内容なのです。でも個々の思い出って、そんなもんだよね。

 大学一年生、パーテーションで区切られた保健室で食べたロールちゃんの味。雨でも降っていたのか、じっとりとして、空は淀んでいる。墨をぶちまけたような真っ暗な空、THE MUSICのTURN OFF THE LIGHTをiPodで聴きながら自転車を漕いで家まで帰っていた。とても大きな川を越えなければ帰ることが出来ず、川と同じように大きな橋を、必死にペダルを漕ぎながら帰っていた。ごうごうと唸る水の音が、THE MUSICの電子音に混じった。相反するふたつの性質を持つ音は、不思議と耳に馴染んだ。

 初夏を迎える頃、カラーボックス2つに机、ベッド以外の何もかもを片付けてしまい、普段は焚かない香りのアロマを選び、まるで自分の部屋ではないかのように誂えた後、ゆっくり眠ることが好きだった。甘さの滲んだ優しい声のボーカルばかりを選んで、微かに歌詞が聞き取れるほどの音量で流す。現実から切り離され、煩わしさや喧騒から離れる時間が好きだった。

 真夏、人生で初めてビックサイトのコミケに参加した。当時知り合った、まだ何回も顔を合わせたことのない人の車に乗り、その人の友達だという初対面の人の家に泊まった。コミケは大きな文化祭のような印象で、何もかもが手作りで行われているのだなと感じた。その熱気は好きな部類のものだった。会場を一人でふらふらと歩いている間、Linkin ParkのBleed It Outをずっと聴いていたけれど、体の底に眠っている何かを掻き立てるような高揚感は、この会場の雰囲気にとてもよく似合っていると思った。疲れ果てて、再び今となっては名前も顔も思い出せない人の家に戻り、今度はThe Little Things Give You Awayを聴いた。真っ暗で、部屋に置かれている家具の輪郭すらなぞれなかった。ほの暗い水の底を歌うこの曲と、敷布団に横たわる私が重なるようで、心地が良かった。

 コミケに参加した後、長い間強い紫外線を浴びたせいか、顔がひどく腫れてしまった。重病の素因を持っていた私は、親に心配され、この年の夏をほとんど遮光カーテンで遮られた部屋の中で過ごした。帰省中、旧友と出かけることもあったが、全く話が噛み合わなくて、以降顔を合わせたことはない。彼氏がどうこう、メイクがどうこう、女性誌に出てくるような話題が好きではなかったのは大きい。全く違う世界で生きている人に見えた。

 ニコニコ動画を覚え、ゲーム実況ばかり見ていた頃。固めに炊いたご飯に、フリーズドライの卵スープをかけて、猫まんまのようにして食べるのが好きだった。見てくれなど全く関係ないご飯で、流石にそれが恥ずかしいものだということも知っていた。だから、一人でこっそり食べた。

 冬、マジョリカ・マジョルカの香水を、歩いて5分の行きつけのドラッグストアで購入した。毎日その香水を付けては、誰もいない講義室を友達数人で占拠し、テスト勉強をしていた。公立大学ゆえに暖房代がケチられていて、講義時間以外は寒さに震えながら教科書を開いた。窓から見える景色は、田舎の大学とは言え、私が出てきた町よりもずっとビルが多く、都会に感じられた。私の地元には、3階建て以上のビルがない。

 同じ時期、1限が始まるずっと前に登校し、ロビーの長椅子にサークルのメンバーとたむろしてはおしゃべりしていた。やはり暖房は効いておらず寒いのだけれど、そんなことは関係などなかった。私達以外誰も居ない静かなロビーには、私達の馬鹿みたいにおおきなゲラゲラという笑い声が響いていた。

 2年生になってからは、実習が始まり憂鬱になることも増えた。実習先までの勾配のきつい道のりを、毎日自転車を漕いでは向かった。道中に立派な公園を見つけ、朝の薄く霧がかった中をLifehouseを聴きながら歩いた。学校までの、やはり勾配のきつい道のりを自転車で登校していた。クリーム玄米ブランばかり食べていて、3食クリーム玄米ブランだったこともある。

 3年生、実は記憶があまりないのはここかもしれない。当時何をしていたんだろう?バイトをしては頓挫して、彼氏からは逃げ回って、とことん挫折を極めた頃のように思う。当時を象徴する音楽がなにもないので、何かに紐付けて思い出すことも叶わない。自炊がとことん苦手な私は、鍋とも言えない何かを、鍋の素を使っては作っていた。実習中に食べた鮭おにぎりは、確かにおいしかったけれど、嫌な記憶が呼び起こされるので今でも食べようとは思わない。ダイエットに励んでいた頃よく食べていた、カロリーメイトの仲間のようなチョコレート味のバーを、今では全く見かけない。

 4年生の頃はまだ覚えている。実習後、家ではやらないからと、帰宅途中にある様々なお店で記録物を書いていた。とは言っても、気に入ったらそればかりの私なので、立ち寄るお店は決まっていた。今でも、よくオーダーしていたフレッシュジュースが懐かしくなる。

 こうして書き出してみると、1年生の頃の記憶は溢れ出さんばかりにあるのに、年を経るごとに少なくなっていき、きらめきも感じず、なんだか寂しいなあと思います。自分の過去のfacebookの記事もついでにと読んだのですが、やはり過去の記事のほうが楽しそうで、過去の自分が羨ましくなるくらいです。どこで何を違えたのか、これから挽回できるのか……。とりあえず、色んな音楽をたくさん聴いて、おいしいものたくさん食べて、思い出を作っていきたいです。

観たいもののメモ:うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー/パプリカ